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東京高等裁判所 昭和42年(ラ)624号 決定

抗告人 西野喜雄

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、原決定を取消しさらに相当の裁判を求め、その抗告理由は別紙のとおりである。

しかし強制競売においては、弁済その他債権の消滅は、請求異議の訴により債務名義の執行力の排除が確定されないかぎり、民事訴訟法第六七二条第一号前段の「強制執行を許すべからざる」場合として競落不許事由に該当しないことはいうまでもない。ただ本件記録によれば、原決定後抗告人(債務者)が債権者に対し本件債務名義にかかる債務及び執行費用の一切を弁済した旨の証書が提出されているので、民事訴訟法第五五〇条第四号により強制執行を一時停止すべきものと認められが、同号の書面提出だけでは、同法第六七二条第一号後段の「執行を続行すべからざる」ものとして競落許可決定取消の理由となし得ず、請求異議の訴の提起による執行停止決定正本を提出してはじめて右の場合に該当するものと解すべきである。ところが本件記録によれば、抗告人は請求異議の訴を提起したことは認められるのに、執行停止決定の正本はいまだ提出されていないので、結局原決定取消の事由とならない。

そのほか記録を調査しても原決定取消の事由は見出すことはできないから、本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 小堀勇)

(別紙)

抗告の理由

一 東京地方裁判所昭和四〇年(ヌ)第六五五号不動産強制競売事件に係る債務名義債権者鳥海孝一債務者西野喜雄とする東京北簡易裁判所昭和四〇年(ロ)第三七〇号支払命令の執行力ある正本が存在した。

二 而して抗告人は債権者に昭和四二年九月二五日迄に債権元本金十五万円及び利息損害金、競売申立費用の全額を弁済し当事者間に他にも債権債務が存在しない。

三 然るに債権者は前記の競売申立の取下げを為さないので、抗告人は債権者を被告として、請求異議の訴を提起し、目下東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第一一、一九四号事件として民事第三一部に繋属中である。被告は抗弁もせず口頭弁論期日の昭和四二年一二月二五日にも出頭せず、抗告人の勝訴は明らかである。

債権の存在しない競売は許されないので、競落許可決定を取消すとの御決定を求めこの抗告申立に及んだ次第であります。

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